へもか

憶測以上の確定未満

振動するいなり

明日の早朝の移動が面倒で、現地近くに前日入りしておくことにした。恋人はまだ仕事から帰らないので顔を見ないまま部屋を出た。パートナーと話すことだけに意味があるわけじゃないとしても、私たちは平日はあまりに話さない。平日は互いに疲れている。疲れていることを言い訳にしている。

駅のホームですれちがう人に帰ってくる恋人がいるなら見落としたくなくて、次から次に現れるスーツの男性を目で追った。こんなにたくさんの他人の顔をまじまじと眺めることもあまりない。ホームにいなくても改札なら、改札を出たら、JRの改札なら、会えるんじゃないかと思っていたけどそんなうまくはいかなかった。ただの人混みだった。

品川で豆狸のいなりを三つ買う。

新横浜に向けて減速する新幹線の振動で、最後のひとつになった黒糖いなりが小刻みに震えている。