へもか

憶測以上の確定未満

夜中に包丁を研ぐ

ひさしぶりに砥石を出して包丁を研いだ。

夜中に包丁を研ぐのはなんだか縁起が悪そうだけど、なんといっても夜中に包丁を研いでいるとかならず山姥のことが頭をよぎる。子供の頃に布団のなかで読んでもらうお話に、姉弟のだれが選んだのか覚えていないけど山姥の話があった。本を手にした母は手際良く話を進めた。旅の途中、土砂降りに襲われたところ老婆に洞窟へ招かれて過ごす夜を。シューッ、シューッという擦れる音に目が覚めて。光る包丁を砥石に当てたまま振りかえる山姥のおそろしい顔が。子供心に、寝るまえの読み聞かせとしてこんなに真に迫る必要ありますか、といったことをおもったけどそういう語彙をもたなかったので話が終わっておとなしく寝たとおもう。山姥がいると信じるような年齢ではなかったが、類するものがもしも存在する場合は逆撫でしたくなかったので舐めた口はきかなかった。