へもか

憶測以上の確定未満

キャッツ

高校三年生の私のクラスは文化祭でキャッツのミュージカルをやった。

文化祭では展示かパフォーマンスかミュージカルをクラスごとに選ぶ。とくに決まってはいないのに一、二年生がミュージカルを選ぶのは無謀な挑戦、というか生意気とされていた。

高校をなめくさっていた私はろくに友人もいなかったので、文化祭だろうがなんだろうが学校で過ごす時間をわずかにでも増やしたくなかった。家に帰ってベランダにエサを撒いてカゴを立てかけたクラシックな罠にスズメが引っかかるのを待ちながら、クラッシュバンディクータイムアタックをやっていた。

クラスの彼女たちの大半は驚くほど真剣にミュージカルに取り組み、歴代の先輩たちのキャッツをビデオで学び(担任の教師がちゃんと持っている)、発声から歌、踊り、演技と練習に打ちこむ。

私は三人いる照明係のひとりに決定した。

照明は面白かった。ミュージカルを生かすも殺すも照明や音響にかかっている。シーンやメインになるキャラクターをふまえて照度を決め、少ないカラーフィルムからスポットライトの色を選び、フィナーレに向けて盛りあげる全体に流れのある感動的な照明計画を練りあげた。

私のキャラクターに照明が合っている、と出演者自身に言われたのがうれしかった。あれはリハーサルだったか。

文化祭当日。緊張と興奮で泣きだしそうな空気のなか幕があがり、彼女たちは歌い叫び足を鳴らして踊った。私は照明卓を離れ、スポットライトを握りステージを見た。ほかの二人が間違えて照明計画はボロボロになっていて流れもなにもなかったけど、ステージは輝いていた。

いま思えばごく普通の人間がミュージカルをやるチャンスは二度とない。私は高校生活を見下していたけど、あそこで全力で取り組んだ彼女たちのほうがよほど大人だった。

できることに全力で取り組むたのしさを分かっていた彼女たちが、思いだすたびに勝手に輝きを増していく。