「未来をつくる言葉: わかりあえなさをつなぐために」を読みました。
コミュニケーションについて、日英仏トライリンガルの著者による本。
本となったきっかけに、生まれた娘のために父の歩みを記したいという気持ちが書かれていて、父という意識が文章を包んでいる。いつか読者となる娘へ向けられた言葉が読者の私にもあたたかく心地よい。
母語。アイデンティティ。表現。コミュニケーション。理解。関係性。デジタル。
それぞれのキーワードに関する著者の見解はほかで読んだことがないというほど斬新ではないのだけど、筆者の半生をもとに語られると不思議と分かるかもと思っちゃうし、分かりたいという気持ちが掻き立てられる。
斬新ではないと書いてしまったけど、これだけのキーワードを理論だけでなく実体験をもとに、ジャンルも曖昧なまま包括的に語られる本はあまりないかもしれない。
”わかりあえなさをつなぐために”という副題のとおり、この本は現代の断絶を射程に入れている。
そもそもなぜ人は表現するんだろう。異質な他者とどうやってつながれるんだろう。他者とどうしてつながる必要があるんだろう。他者と分かりあうことはできるのだろうか。
読者といつか娘が抱くであろう疑問に、著者ははぐらかしたりせず簡潔な言葉で答えていく。
私は設計職なので空間を通じてなんらかを表現している。ここに座ってサクラを眺めたらいいんちゃうかな、とかいう思いでベンチの位置や背もたれの有無や数を決めて図面に書き込むけど、同じ思いで他者に過ごしてもらうことは不可能だし必ずしも望んでいない。
もっといいのは自由勝手に過ごしてもらうことで、そこに居るひとの活動や表現を(わずかでもいい)触発する空間をつくることができたらどんなに豊かな景色になるだろうとおもう。
こういう空間に魅力を感じる設計者は多いんじゃないかとおもうけど、みんなが好むのは完結しない世界や未知の世界が混じりあうことに可能性を感じているからじゃないだろうか。
未知の世界を発見する時とは、既知の領域を離れる時でもある。
(p.1)
既知の領域を離れて未知の世界を発見するおもしろさに生かされている。