へもか

憶測以上の確定未満

「掃除婦のための手引き書」を読みました

ひょっこり一日だけ暖かな日があった。リスやカササギがおしゃべりし、スズメとフィンチが裸の木の枝で歌った。わたしは家じゅうのドアと窓を開けはなった。背中に太陽を受けながら、キッチンの食卓で紅茶を飲んだ。正面ポーチに作った巣からスズメバチが入ってきて、家の中を眠たげに飛びまわり、ぶんぶんうなりながらキッチンでゆるく輪を描いた。ちょうどそのとき煙探知機の電池が切れて、夏のコオロギみたいにピッピッと鳴きだした。

世界だ。

庭の光景からはじまって、背中に太陽の熱を感じ、蜂のとびまわる音が部屋の広がりを伝え、そこに天井からの煙探知機の電子音が重なる。文章を読んでいることを忘れて世界にいた。ブンとうなって頭のうしろを過ぎる蜂と天井からの電子音を聴いた。

入江にボートを引き上げると、二人は突き出た岩から緑色の水に飛びこむ。水は魚と苔の味がする。

口に味が広がるのを感じる。湖に飛びこんだ、次の文章で水の味。水飛沫でも水音でもなく、水の味。かっこよすぎる。 

野暮ったい仕掛けではなく、純粋に力の強い文章が気持ちいい。

ストーリーももちろんよかったけど、ちょっとストーリーを忘れるくらい純粋に文章がうまかった。うますぎた。もっと読みたい。