きまってハッとする雰囲気というものがある。
その雰囲気から景色を抽出したら、「手前が暗くて奥が明るい」要素が得られた。
写真に残しているいちばん古いものは二〇十三年四月(fig.1)だった。ユースホステルにひとりで泊まった翌朝、顔を洗いに向かった洗面所がすごくきれいだった。
fig.1 知多半島のユースホステルの洗面所
この「手前が暗くて奥が明るい」空間の良さは、照明計画等を学んだひとなら知っているであろうサバンナ効果に起因するのではないかと考えている。
サバンナ効果というのは、手前より奥の空間を明るく照らすことでひとに興味喚起と安心感を与えるというもの。岩と岩に挟まれた暗く狭い空間から先に明るい山道が見えたらホッとするしまぶしい緑がなんとも美しく見える(fig.2)。
fig.2 岩と岩の間を抜ける山道
fig.3 明るい踊り場と暗い階段
明るい踊り場までは進むだろうけど、その奥の暗い階段も登りたいと思うだろうか(fig.3)。ちょっと怖い、というかなぜ蹴込みから自然光が差しているのか、この階段はなんなんだ。
撮り集めた写真を見ていると似ている良さがありながら、すこし違うかな、という景色も集まる。分かりやすいものを集めた(fig.4)。
fig.4 似て非なる景色
景色というより撮りかたの問題だけども、これらは写真の構図によるフレーム効果が大きいように思われる。
フレーム効果というのは、なんかしらをフレームと捉えて奥行きを強調し被写体を際立たせる撮影のテクニックで、上に並べた写真はそのように考え撮影した(たぶん)。
サバンナ効果とフレーム効果、この二つを分けているのはなにか。それは暗い空間自体の広がりが写されているかどうかにある。個人的な印象だけど、フレーム効果は被写体とフレームという二枚のペラッとしたレイヤーが並べられているように感じられる。
それに対しサバンナ効果は暗い部分に空間の広がりを持たせる。
fig.5 明るい空間に対しフレームになってはいるが通路のように奥行きをもつ
明るい空間は一枚のレイヤーに描かれているような奥行きを感じさせない、フレーム効果とおなじ写りだが、暗い空間には廊下や階段といった広がりのある空間だと分かるようにすこし引いた位置から撮られている(fig.5)。
fig.6 竃が暗すぎて空間の広がりが分からない
実際に手前に暗い空間を残していても、真っ黒につぶれていると広がりが認識できないためフレーム効果の印象を受ける場合がある(fig.6)。
以下、手前の暗い空間がいかに演出されているかに着目すると自分の好みが分かるかもしれない。
fig.7 奥からの素直な明るいグラデーションが表現されている
数では奥からの素直な明るさのグラデーションを持つものが多い(fig.7)。しかしその景色の類い稀な美しさにかわりはない(LOVE)。
fig.8 手前から明るさのグラデーションができている
珍しいけど手前に明るさが出てしまうときもある(fig.8)。これは数が少ないので話をするのがむずかしい。
fig.9 側面からの明るさによるグラデーションが感じられる
側面からの強い光もまた良い(fig.9)。不意を突かれるかんじ? 見慣れていたひとの横顔に見惚れるかんじ?
fig.10 屋根面と左右の壁面に奥の明るさが写りむやばい景色
三面に明るさが写り込んでいる、ほぼ東急プラザ表参道原宿に通ずる(fig.10)。これやばくないっすか。
fig.11 床面の反射による強いハイライトに広がりを感じる
とくに私が好きなのは手前にハイライトをもつパターンである(fig.11)。すごく特別なかんじがする。
fig.12 写真が下手
階段という高低差の先に明るい空間があるのも良い(fig.12)とおもったが、階段の段鼻が見えないので高低差や奥行きが分かりづらい。手摺だけが光っている。
fig.13 上からの光だ
奥が明るいのは明るいのだけど、奥の上からの明るさが感じられる(fig.13)。ほとんど教会のような神々しさだ。
fig.14 グラデーションなし
ほぼグラデーションがなく、明暗のコントラストがバツッとついている場合(fig.14)も良い。明るい空間がぽっかりと登場する異質な印象が強調される。
fig.15 手前が暗くて奥が明るい、が二度繰り返されている
見つけたときはあまりのことに心臓が跳ねた「手前が暗くて奥が明るい」が二度繰り返されている景色である(fig.15)。ときめかずにいられない。
たくさんの「手前が暗くて奥が明るい」をまとめてみて満足した。これからもいろんな景色を撮ろう。