へもか

憶測以上の確定未満

図書館のちかくの部屋

二月十五日

妹と待ちあわせをして昼から銭湯へ行った。風呂あがりには恋人と落ちあう予定になっていたので慌ただしくなったけど、決めた時間目掛けて妹と行動を組み立てるのは正直たのしい。なにか私が間違っていれば妹は訂正するし、妹の許容範囲を超えているなら却下するだろうから、遠慮がいらない。

約束していた時間に間に合って三人でベーグルと野菜(とても安い)を買いに行った。

夜。酔った恋人と今日の話をしていたはずが些末なとこから話が進まなくなり、どちらが何を言いたかったのか思い出せないくらいの堂々巡りをしはじめていた。

恋人が酔うとこうなることが多いと、薄々気づいている。私のほうはといえば、あまり酔っていないので普段とほぼおなじ調子で話している。ということは、いつも口喧嘩にならないのはしらふの恋人がだいぶ譲歩しているんじゃないだろうか。

酔ったときくらい譲ってみようか。

 

二月十七日

不要不急の外出は控えるよう政府の集めた専門家たちが呼びかけていて、そのニュースを会社のデスクで読んでいる。おなじことをやっている人が多そう。

現時点で治療法のないウイルスの感染が拡大していても、あいかわらずこんな調子なんだなとちょっと退屈におもう。映画みたいにパニックにはならないな。国内で何万人も感染してもこんな調子かもしれない。こんな調子が強すぎる。

 

二月十八日

朝、恋人を起こしたら「いまふたりでお寿司を食べる夢を見ていたよ…」と言うので、それは起こしてしまって悪かったなあ…と折に触れて思いだしては一日なごんでいた。

 

二月二十四日

西日でほんのり部屋が明るくなる。道路を挟んだ向かいのマンションの窓で反射して、短い時間だけ西日がはいる。図書館で借りた「風景にさわる」を読んでいたら、声に出して文を読みたくなってきた。音読はきらいじゃなくて、ひとりだったら時々やっていた。

結婚をするつもりで同棲していたとき図書館のちかくに部屋を借りていた。たしか冬で建物と建物が近いせいか部屋は薄暗く湿っぽくて、慣れようとしていたけど苦手だった。相手とは休日の合わない仕事だったので、部屋でひとりのときはよく声に出して本を読んでいた。普通に会話をするような大きな声で。必要なら間を持たせて。

準備をしているときは結婚するつもりだったのに、引っ越した日にいつか飽きるのがわかった。このまま老いるだけだって気がした。どう生きても老いるだけの地味な人生だと受けいれていたけど、これはちがうとおもった。直感だけで決めることはあまりなかったから、自分でもいまだによくわからないんだよね。

 

 

銭湯とニキビの話

一月十七日

妹と銭湯へ行ってきた。

大きな浴槽と高い天井が気持ちいいから銭湯は好きだ。夜の銭湯は生活圏を共にしている人々の集まりという気配が強い。それも嫌いじゃない。様々な人の様々な裸を見るのも結構好きだ。肉の付き方や張りや垂れ下がり方、骨の浮き出具合、日焼け方。人それぞれだ、千差万別だ。そんなことは見た目の違いに過ぎないのだけど、似ているようでそれぞれ違うんだなと見ていると、多様性の理解ってこんなかんじかもなって思う。

 

一月二十三日

ごまかせないほどに鼻にできたニキビが腫れあがった。まあ、肌の調子のことだから仕方ないと放置していたらちょうど読んでいる本にニキビの話が出てきた。

曰く、人は無意識のうちに他人の不気味さについて無慈悲なジャッジを下している。そのひとつに相手の顔にニキビがあると(観察者にとって無害であるにも関わらず!)不気味だと感じるらしい。もちろんニキビ面のひとを不気味だと言うのはまちがっていると倫理的にはだれもが分かっていることだけど、それは無意識のうちに行われる。

第一印象がニキビになることを恐れて苦手なマスクをして過ごしている。

だめだな

仕事が忙しい。

私よりずっと忙しいひとはいるけど、私にとって十分に忙しい。

あふれる仕事を片付けるため外注さんに仕事をお願いする。ほんとはもっと行きたい現場の代理人や職人さんにメールや電話でこまかな部分の確認をする。

あたりまえだけど私の考えていた仕事とはどうしてもすこしずつ出来栄えがちがう。考えていたとおりにはならない。良くなったこともあるし、意図が理解されなくて無意味なものができたこともあるし、最初は私には良くみえなかったけど次第に想像を超えて良くなったこともある。図面や計画どおりにできたことがない。

おもえば、私だけが私の考えていた仕事の完成を求めていたのであって、私以外のだれにもそんなものは求められていなかった。私の会社の仕事が無事に完了すればいいのであって、ああこういうのが必要な妥協かと分かるまで十年かかった。要領が悪くて笑ってしまう。一社員だから、私個人のなにかを求められるような仕事ではない。

分かっていても、ほんとにそれでいいのか、ここだけは譲らず私の仕事をしてみたい、すべきなんじゃないか迷う。その線引きに自信がなくて、ただ時間と締切に舵を取られている。だめだな。

やさしさではない

また会ってもいいか、もう会う必要もないか。初めて会ったひとを一度の機会で判断しますか。たとえば友人の友人のような、仲良くなれるといいなと思っていたひとが、最低限と考えている礼を失していると感じたら、もう会いたくないリストに加えますか。

ちょっとまえにこの話で、完全に平行線のまま長くやりあってしまった。

質問のこたえは私はノーなんだけど、なんであんなムキになってしまったんだろうって考えてみると、たぶん私自身が一度の機会でジャッジされていたら二度会ってもらえない人間だろうなって感じているから。

初めて会った時間がどこか違和感のある時間になったとして、なにか私の与り知らない事情があってこういうかんじになっちゃったんだろうなと勝手な補足をしてあまり気にしないことが私は多い。

慣れない靴で靴擦れしていてつらかったとか、花粉症の薬を飲んでいて細かく気がまわらなかったとか、なんかあったんでしょう。

その場の空気はともかくとして、ひと自体の判断を私は保留してしまう。それってそんな間違っているかなと思っていたらちょうど読んでいた本に書かれていた。

https://nusumigaki.tumblr.com/post/187731590347/%E5%BD%B1%E9%9F%BF%E3%82%92%E4%B8%8E%E3%81%88%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%81%A8%E6%80%9D%E3%82%8F%E3%82%8C%E3%82%8B%E7%8A%B6%E6%B3%81%E7%9A%84%E3%81%AA%E5%8A%9B%E3%82%84%E5%88%B6%E7%B4%84%E3%81%8C%E8%A6%8B%E3%81%88%E3%81%A6%E3%81%9D%E3%82%8C%E3%82%89%E3%82%92%E6%9C%AC%E5%BD%93%E3%81%AB%E7%90%86%E8%A7%A3%E3%81%A7%E3%81%8D%E3%82%8B%E3%81%A8%E6%84%9F%E3%81%98%E3%82%89%E3%82%8C%E3%82%8B%E3%81%BE%E3%81%A7%E3%81%AF%E6%85%8C%E3%81%A6%E3%81%A6

そうですよね、それはやさしさゆえではなくて正しさのためなんですよね。

https://nusumigaki.tumblr.com/post/187731629282/%E7%8A%B6%E6%B3%81%E3%81%AB%E3%81%82%E3%82%8B%E5%AE%A2%E8%A6%B3%E7%9A%84%E3%81%AA%E7%89%B9%E5%BE%B4%E3%81%A0%E3%81%91%E3%81%A7%E3%81%AA%E3%81%8F%E3%81%9D%E3%81%86%E3%81%97%E3%81%9F%E7%8A%B6%E6%B3%81%E3%81%AB%E7%9B%B4%E9%9D%A2%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E4%BA%BA%E3%81%8C%E3%81%A9%E3%81%AE%E3%82%88%E3%81%86%E3%81%AB%E3%81%9D%E3%81%86%E3%81%97%E3%81%9F%E7%89%B9%E5%BE%B4%E3%82%92%E8%A7%A3%E9%87%88%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%81%AE

そのうえ場を相手がどう解釈して、それが相手の行動にどうフィードバックされているか、その場で察することができますか。私にはできません。

でもできるようになれたらいいな、と思ってはいるんですよね。

 

その部屋のなかで最も賢い人 ―洞察力を鍛えるための社会心理学―

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最強のバースデイディナーを組もう

誕生日祝いのディナーはハンバーグがいいとリクエストをもらったので、ほぼ一週間かけて献立を組み立てた。

食材と味の方向性、色、食感、温度、盛りつけのバランスを考えて決めるんだけど、いつもどうやって自分がやっているかなって、オススメのレシピと一緒に。

 

ハンバーグ

最近はハンバーグはミート矢澤(のものだと言われている)レシピでしか作りません!

たくさんの牛脂をスーパーでもらわなくちゃいけないので恥ずかしいけど、シンプルでいいレシピ。手でこねるメリットはないことが分かってやらなくなった。

迷ったのは盛りつけで、どうにもこうにも子供っぽい。

盛りつけは料理名で画像検索してイメージすることが多いけど、ハンバーグとニンジンとブロッコリーのあの三色がどうにも垢抜けない。こういうときは英語で「Salisbury steak」と画像検索する。

ハンバーグにマッシュルームとマッシュポテトとインゲンあたりが多く、アイボリーからブラウンのトーンに一色だけグリーンを足すとシックで良いことが分かりメインの食材が決まった。

ちなみに付けあわせのマッシュポテトはこのレシピ。

この時点で器も決めておく。シックな色にしたぶん器はスキレットにしてラフな印象にしてバランスをとることに。

 

帆立と蓮根とヤングコーンのマリネ

メインと対になるメニューが必要ですよね。

メインが肉ならこっちは魚介で、歯ごたえのある食感も加えたい。ハンバーグは脂が多いので、口をさっぱりさせられるイメージ。

そこまで考えてスーパーに行ったら白くて綺麗な蓮根とぷりっとおいしそうな帆立の刺身があったので迷わず購入。帰ってきてからインターネットで食材を打ちこんで検索する。

青唐辛子と赤唐辛子の辛味は献立の良いアクセントになりそう。タコは抜いて、グリルした蓮根とヤングコーンを和えれば歯ごたえが楽しめるのでこれで決定。

白っぽい食材ばかりなので黒い高台の器に盛って思いっきり上品にお祝い感を出していく。

 

トマトと焼き茄子と練り胡麻ミントのサラダ

ひとつくらいやったことのないサプライズのあるメニューを作りたい、お祝いだもの。
メインとマリネがガッチリ決めてくれるから冒険しても大丈夫なはず。

こういうときのために用意したターブルオギノの荻野伸也シェフの野菜料理200。

ネットの不確かなレシピでは冒険できないでしょう。

ちょうどベランダで恋人が大事に大事にミントを育てているので、ミントを生かしたレシピに決定。私だけがつくったメニューではなくあなたのおかげでできるんですよって感じてほしかった。

ほかの二品は平皿なのでサラダは深皿に。

 

だいたいそんなことを考えてメニューを決めました。ひさしぶりに思い切り料理をして楽しかった。

 

 

追伸、翌日はデミグラスソース風で。

サンドイッチを作るあいだに考えていること

冷たいフライパンにベーコンを並べて弱火にかけて、ジリジリとベーコン自身の脂で揚げるように両面を焼きつけます。美味しそうに焦げてきたら火を消してブラックペッパーの粗挽きをガリガリ振りかけます。

バターを柔らかくします。熱帯夜ならベランダの室外機のうえにでも小さくきったバターを載せた小皿を置くけど、200Wのレンジで1分加熱したほうが手軽ですよね。バゲットを適当な長さに切って斜め上から切り込みをいれてバターを塗ります。

朗報、バターは塗るほどおいしいのです。バゲットの穴にバターを詰めろ!

トマトに包丁を突きたてて芯をくりぬいたらヘタと水平方向にスライス。トマトは5mmくらいのやや厚めに切ったほうがジューシーさが際立って変化がついて良いんじゃないでしょうか。キッチンペーパーで断面の水分を拭きとります。余計な水分はパンをふやかしてしまうし味もぼやけてしまうのでやるとやらないとでは仕上がりがちがうんです、たぶん。

レタスもしっかり水分を拭かなくてはなりません。レタスは春巻きのように、芯から一巻きし左右を折りたたんでくるくる巻くと、最後までこぼれにくく上品に食べられるレタスになります。

ソースがほしいので、オイスターソースとマヨネーズを同量混ぜます。

パンにレタス、ベーコン、トマトを挟んでトマト側にソースを忍ばせれば完成です。

レタスとトマトが隣りあうとかじるたびに具材がすべって無限の彼方へ!さあいくぞ!しがちなのですこしでも摩擦係数の高そうなベーコンを。

トマトは水分が多く味がボケるのでソースでパンチを添えました。

 

 

 

やはりバゲットにバターを塗ります。

冷蔵庫からクリームチーズを取り出してバターナイフで薄く切って挟みます。クリームチーズは塗るものではなく挟むものです、具材として。 

クリームチーズをパンに挟んで反対側にはディジョンマスタードをたっぷり塗ります。なくてもいいんですけど、ディジョンマスタードの酸味がおいしいです。

最後に生ハムをサッと挟めば完成です。

具材がぜんぶしょっぱいから味が決まります。

 

結局、好みのパンをゲットできるかどうかにかかっているんですけどね。

思いつき

思いつきで通りがかりの美容院にはいったことがある。

ムンと暑い夏の夕方、土砂降りの雨が降りはじめて目にはいった道の脇の美容院に逃げこんで、「カットしてもらえますか」と頼んだ。

髪を濡らして(もう十分に濡れていたけど)天井から床までの大きな窓のまえの席に座らされると、雷と雨が視界いっぱいに荒れ狂っていた。

小さな音量のFMラジオと時折ピシャリと空気を割いて鳴りひびく雷と鋏の音を同時に聞いているのが不思議で、丸太小屋風の小さな美容室に雨と雷に閉じこめられていると思うと意外に心地よかった。

大学生の当時、散歩していた恋人も一緒だったはずだけど美容室では一言も話さなかった。話すほど席は近くない。

髪を切りおえられても雨がやまなかったらどうしようかとぼんやり思ったけど、髪を乾かしてもらっている頃には雨も弱まっていた。

美容室を出ると雨はあがってもう夜が近かった。ずぶ濡れの道路にひとりも人がいなくてあまりに静かで、指で髪を梳くと軽かった。

断片的だけど思いつきはそれだけでなぜか鮮やかに記憶している。当時の恋人もこの日の美容室は覚えているんじゃないだろうか。覚えてないかな。なにか最近は思いつきをやってみたっけ。

 

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