七月一日
仕事後に美容院の予約をねじこんだ。引っ越して何年も経つのに相性のいい美容院が見つからなくて、もう数ヶ月行っていなかったからやっとだ。
慣れない美容院に行くのは面倒だけど髪の状態を聞くのは良いのでおすすめしたい。
「毛先傷んでなかったですか」などと聞いて「きれいでしたよ」と褒められればもちろんうれしいし、「傷んでましたね」と答えられても「(ムムッ正直な美容師さんだな信用できる)」と良い美容院に出会えたかもしれないなと勝手にうれしい。
つまりどちらでもいいのだ。どちらにせよ毛先はもう切られちゃってるんだから。オッケーオッケー!
七月二日
会社を出ました、と夫から連絡があって三十分くらい経った。こちらは在宅でまだ残業していたけど、机を離れて洗面所で化粧をはじめる。すでに日も暮れていて外に出るつもりもないけどノーメイクのまま夫を迎えるのはあまり好まない。
そういえば子供の頃、夕方になってから母が化粧をはじめるときがあって不思議におもったおぼえがある。出かけるわけでもないのになぜ化粧をするのか分からなかったけど、あれはもしかして父が帰ってくるのに合わせて化粧していたのではないか。
社宅の畳の部屋に置いた化粧台に座って、慌ただしくファンデーションをはたく母を見て、化粧をしない母の肌の色やツヤのほうがずっといいのにと子供的にはおもった。父が帰ってきたらそのことは言わないとな。化粧するまえの母のほうがかわいかったんだけどね、って。
子供の頃はそうおもったんだけどね、化粧しているほうがかわいいだろと大人的にはおもう。夫が帰ってくるまであと三十分。化粧を終えなくては。
七月三日
大学時代からの友人が所用で夫と子と都内に来るとのことでお茶の約束をした。
ところが当日になって強烈な大雨で新幹線は四時間以上遅れるし、すでに彼女のあとの予定は迫っているし、でバタバタとした空気になってしまった。
まあ多少短い時間になったところで数年ぶりに会って話すんだから。会って話したぶんだけ会っていなかった時間がシンプルに埋まる。
電車に乗る直前の彼女とホームでギュッと抱きあってまたね、と見送るまでそうおもって深く考えていなかった。解散してみるとこれでまた離ればなれなんだと気づいた。
会っていなかった時間は会うと埋まるより鮮明になる。まあ、なんだ、その、さみしくなっちゃったって話。