へもか

憶測以上の確定未満

食事と生活 5

十二月三十一日。

名古屋へ戻ったら母が迎えに来てくれる約束だったけど、直前で乗る新幹線を早めた。予定より早く帰るよと連絡しても返信すらないまま最寄駅に到着した。こないだまで一人でよく飲み歩いた飲屋街なので歩いて帰ればいい。古い縄張りのパトロールだと、意気揚々と一駅歩いたところで母から電話があって、そんな危ないエリアを歩くなと叱られた。

迎えに来た母は車を運転しながら近況を教えてくれる。バイトをはじめたので忙しくて仕事を終えたら自転車で家へもどり三十分で昼食と休憩を取って祖母を買物へ連れていく。時間がないので昼食は冷凍食品のパスタをチンするんだけどあれって意外とおいしいのね。あなたが帰ってきたら雨上がったわ。アクセルからブレーキへ忙しく踏み替えながらとめどなく話す。

母が一人で適当な食事をとっているのはなんとなくさみしい気がする。豪勢じゃなくてもいいけど、せめてせわしくない食事をしてほしいじゃない?

というのは私の勝手な思いで、せっかく張り切っている母には美味しくてヘルシーなインスタント食品でも教えてあげたほうがいいんだろうな。

 

一月三日。

本山の交差点から猫洞通を上って洋菓子店を目指して歩いていたら、学生の頃行った洋食店が見えてきた。昔の恋人と行ってオムライスを食べた店。焦げひとつない黄色いオムライスが置かれたテーブルには赤と白のギンガムチェックのビニールクロスが敷かれ、すずらんのような傘の照明が天井から下がっていた。もぐもぐやる顔を一方的に見られるのが嫌で相手の料理が来るまでオムライスの湯気を目で追っていた。

通り過ぎざまに出窓のカーテン越しに店を覗くと記憶のままだった。

東京に戻れたのと同じくらい、名古屋を離れられてよかった。そんなこと思うくらいそのままだった。

 

 

一月四日。

おせち、蟹に、すきやき。年末年始の食事は豪華だけど、あまりに豪華で家族で囲むにはちょっとむずがゆい気がする。

ついに夕食のネタが切れた母に何がいいか聞かれたのでお好み焼きをお願いした。

弟と父と母が選んだという缶詰をつまみにビールを飲みながらお好み焼きが焼けるのを待ち、父は入手した日本酒のうんちくもそこそこに開栓し、チーズがないマヨがないと騒いで母に煙たがられている。空気が煙いからと窓を少し引くと冬の空気が細く入ってくる。

お好み焼きおいしいな。妹夫妻は早く帰ってこないかな。