へもか

憶測以上の確定未満

食事と生活 2

五月十九日。

果物の皮を剥くときは原石から宝石を切りだすような気持ちでカットしている。皮を剥くのではなく、塊からみずみずしい果肉を取りだすイメージ。

宝石は面が多いほど輝きが増すけど、果物はなるべく少ない面で最大の果肉を得るようなカットがふさわしい。しなやかな曲面に包丁を滑らせるとやわらかな宝石が姿を現す。健やかに熟れた果物はほんとうに美しい。

 

五月二十日。

教わった覚えはないけれどゆでたまごにはコツがある。卵の尻(トレーの下側になっている方ですね)にスプーンをぶつけて小さなヒビを入れてから鍋に移したら薄く水を張り火にかけて五分、火を消して三分放置。

湯を捨てて水で洗って手で持てる温度まで冷ましたら卵を少しずつまわしながら作業台にコツコツ当ててぐるりと全体の殻を砕いてしまう。そうしておいてまずは卵の尖っている上と下から剥く。それから腹巻のように残った殻をくしゃくしゃと外せばツルリと綺麗なゆでたまごが食べられる。

尖った上下の殻を剥くのを最後に残してしまうと、プルプルの白身を殻に持っていかれてしまうことに気づくのに二十九年かかった。長かった。

 

五月二十一日。

気づいたときには冷蔵庫から出したままずいぶん時間が経っていて、すっかり室温に戻ったヤキソバの麺は冷えていたときの固さを失い、薄いビニール袋のなかをくにょくにょと油で滑っていた。どうせ焼くのだからとビニール袋を破りそのままフライパンに投入したところ、麺はスルリとほぐれ蒸すための水もいらなかったのでカリッと香ばしいヤキソバが焼けた。

母がこのように発見したかどうかは知らないが、実家のヤキソバのコツは麺を室温に戻すことだった。いまでも私は麺をいれたらすぐに蓋をして、同時に炒める野菜の水分だけで麺を蒸してほぐして焼いてしまう。

小さい頃の大きなホットプレートで作るヤキソバは実家の休日の昼食の定番だった。姉弟で母を手伝った。なかでも粉ソースを振りかける作業は特別で、だれがもっとも広範囲に均一に粉を振りかけられるか姉弟で競った。いまでも粉の袋を開けるときから、今日はうまく振りかけられるかなって、一瞬、子供の頃の緊張が胸をよぎってしまうんだ。