へもか

憶測以上の確定未満

こわい

開口部恐怖症。そういうのもあると思う二十二時(黒沢清の「回路」を観ていた)。

あと振りかえって見ちゃいけなそうだなって場所で、そうおもっているのに背中のむずがゆさに耐えかねて振りかえってヒヤッとする、振りかえり恐怖症。

突然の大きな音もいやだな。そういう暴力的なやりかたでビクッとさせられた不快感もある。

動きがおかしいのもだめだな。ユラユラしていたり、ユラユラが止まらなかったり、動きはゆっくりなのに凄い速度で迫ってこられる場合は早めに失神したい。

シンプルに暗がりがこわい。逆光で黒く塗りつぶされた顔とか、表情もどこを見ているのかすらわからない顔と対峙するのがこわい。

てか人間がこわいな。

シャンプーブラシを買った他

七月二十五日

チーズグレーターで削ったニンジンでキャロットラペ、作ってみたいな。表面がザラザラになって仕上がりが違うらしい。

洗い物をして水切りかごに立てたところ、色が揃っているのでいい光景だなと満ち足りた気持ちになった。こういうことありませんか。

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七月二十六日

朝から出ていた現場を離れた。ヘルメットで後頭部の毛つぶれ太郎。

現場から戻った最寄駅付近で豪快に踊る松を見かけて興奮した。だれも気にせずサッサと過ぎていくけど、ここらしい風景でかっこいい。

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七月二十七日

冷凍ブルーベリーを手に入れたので朝ごはんのオートミールがおいしくなった。
ロールドオーツにアーモンドを六粒とドライフルーツをスプーン一杯、スライスしたバナナ、さらに冷凍ブルーベリー。豪華だ。

おいしいよと夫の口にスプーンひとくち運ぶと、「パサパサ」とだけこぼしてパサパサしたものを食べたひとそのものの顔をしていた。会社に向かう途中にその顔を思いだしてちょっと笑った。

 

七月三十日

朝ごはんのオートミールに今日はのこっていた粒あんを足したらとてもおいしくなった。

夫にそう伝えたが信じていない顔をしていた。

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新規コンペのキックオフミーティングに呼ばれているので電車で移動。山手線に乗り換えてシートに座る。隣の男性が本のページを慌ただしくめくっては、何かを書きこんでぶつぶつ言っている。

どんな本に書きこんでいるのか気になってチラッと見た。与謝野蕪村と太字で印字されたページに、赤ボールペンで「俳諧師、絵師、二刀流」と書き込まれていた。とっさに与謝野蕪村が二本の刀を構えているところを想像し、そんなこともあったらおもしろいなとおもった。

 

七月三十一日

シャワータイムにもっとリフレッシュできるといいな、頭皮でもほぐすか。そうおもってあたらしくシャンプーブラシを買った。

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黒くてかっこいいのでukaのケンザンを買った。

手に握ってワックワクで風呂にはいる。もう元がとれるくらいワックワク。

髪をしっかり濡らしてシャンプーを泡立てたところでブラシを当ててジグザグと動かしてみる。頭にしっかりめの突起物がグリグリと当たっているな、というそれ以上でもそれ以下でもない感触。指で洗うより断然効率はいいので頭皮がキュッキュと鳴るほどきれいになった。

シャンプーの泡を流してリンスをなじませてシャワーをしながら頭皮を指でさわると、頭がフカフカしているというかちょっと頭皮が厚くなっている気がする。いま、私、頭がでかくなっているんだろうか。

あわよくば顔の皮膚もひきあげてほしい。ちゃっかり願っている。

火を使わずに南インドカレーをつくる

すっかり暑くなった。せっかくクーラーをきかせているのにコンロの火の前なんて立ちたくない。

ああ、でもスパイスをたっぷりつかった南インド料理が食べたい。火は使いたくない。オーブンと電気圧力鍋を使えばできるんじゃないか。

火を使わずにおいしいカレーはつくれるのか、確認したい。

 

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まずはオーブンを二二〇度に予熱、予熱する庫内でココナッツシュレッドを煎ってもらう。


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オーブンのまえ暑い、オーブンの力つかう、オーブン近寄らない。


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そのあいだにホーローバットに刻んだタマネギとニンニク、ショウガ、青唐辛子。ホールスパイスのファンネルシードとシナモンも載せて油をたっぷりかける。


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オーブンからベビースターラーメンが出てきたかとおもったけど、ココナッツシュレッドでした。

いれかわりでホーローバットをオーブンへ。


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ココナッツはミルサーで水を加えながらペーストに。


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電気圧力鍋にトマトや冷蔵庫にのこっていたトマトサルサを入れて、パウダースパイスをスタンバイ。


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ホーローバットの野菜たちを二十分焼いたところ、色は薄いけど香ばしいかおりがしているのでいいかな。


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電気圧力鍋にぜんぶうつす。

パウダースパイスをいきなり水っぽいところに加えるのに抵抗があったので、せめてローストされたタマネギのうえに。


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スペアリブ。


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だれに言われたわけでもないけど、なんとなく重ならないように肉を敷き詰める。


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ココナッツのペーストをかけたら、加圧調理で15分セット。


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ハイ、煮えました。酢を加えて蓋をはずして仕上げに煮込む。


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ポークロースト(豚肉とココナッツのスパイス煮込み)が無事完成しました。

火を使わなくてもおいしい。

フェンネルシードを油で炒れなかったことが気になっていたけど、食べてみればセリ科特有のさわやかな風味がしていたので十分なのかもしれない。パウダースパイスも炒めてはいないけど、コリアンダーガラムマサラターメリック、カイエンというシンプルな編成のおかげか粉っぽいことはなかった。

なお、バスマティライスを炊くために夫はコンロのまえに立ってくれました(感謝)。

柔軟性

「コンピューターは人のように話せるか」と「デザインリサーチの教科書」を併読していて、人間は何が得意なのか、AI時代にいかに働くべきかという問いが共通して浮かびあがった。AIが苦手なことから人間が得意なことが見えてくるのはおもしろい。現時点でAIは具体的な情報から抽象的な問いを見出すことが苦手らしい。類似性の発見だとか思考のジャンプだとか、呼びかたはいろいろあるとおもうけど「あれがこうだったらな」という妄想は人間にとって簡単だけどAIにはまだむずかしい。

妄想は子供の頃からすきだ。いかに実現するかを考えるのもすきだ。そこに妥協や挫折はあったかもしれないけどカタチになっていくおもしろさと興奮ばかり覚えている。私の妄想を超える発想と実現するひとたちに何度も頭を殴られる。殴られたダメージが分からなければショックを受けられない自分にイライラする。

妄想を口にすることが恥ずかしくなって、家族相手か酒を飲んだときか半分冗談みたいな顔でしか話せなくなっても、そこから何か掴んでやろうとちょっと本気な自分がいるぞという気持ちが自我を支えているとおもう。

しかし私の妄想は飛距離がない。時間や規模や分野に対して興味と想像力と我慢強さが圧倒的に足りない。妄想はどうやって鍛えればいいんだろう。経験なのかな、柔軟性はどうしたら失わないでいられるんだろう。心配している時点でもう柔軟ではないんだろうか。

 

デザインリサーチの教科書

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さみしくなっちゃったって話

七月一日

仕事後に美容院の予約をねじこんだ。引っ越して何年も経つのに相性のいい美容院が見つからなくて、もう数ヶ月行っていなかったからやっとだ。

慣れない美容院に行くのは面倒だけど髪の状態を聞くのは良いのでおすすめしたい。

「毛先傷んでなかったですか」などと聞いて「きれいでしたよ」と褒められればもちろんうれしいし、「傷んでましたね」と答えられても「(ムムッ正直な美容師さんだな信用できる)」と良い美容院に出会えたかもしれないなと勝手にうれしい。

つまりどちらでもいいのだ。どちらにせよ毛先はもう切られちゃってるんだから。オッケーオッケー!

 

七月二日

会社を出ました、と夫から連絡があって三十分くらい経った。こちらは在宅でまだ残業していたけど、机を離れて洗面所で化粧をはじめる。すでに日も暮れていて外に出るつもりもないけどノーメイクのまま夫を迎えるのはあまり好まない。

そういえば子供の頃、夕方になってから母が化粧をはじめるときがあって不思議におもったおぼえがある。出かけるわけでもないのになぜ化粧をするのか分からなかったけど、あれはもしかして父が帰ってくるのに合わせて化粧していたのではないか。

社宅の畳の部屋に置いた化粧台に座って、慌ただしくファンデーションをはたく母を見て、化粧をしない母の肌の色やツヤのほうがずっといいのにと子供的にはおもった。父が帰ってきたらそのことは言わないとな。化粧するまえの母のほうがかわいかったんだけどね、って。

子供の頃はそうおもったんだけどね、化粧しているほうがかわいいだろと大人的にはおもう。夫が帰ってくるまであと三十分。化粧を終えなくては。

 

七月三日

大学時代からの友人が所用で夫と子と都内に来るとのことでお茶の約束をした。

ところが当日になって強烈な大雨で新幹線は四時間以上遅れるし、すでに彼女のあとの予定は迫っているし、でバタバタとした空気になってしまった。

まあ多少短い時間になったところで数年ぶりに会って話すんだから。会って話したぶんだけ会っていなかった時間がシンプルに埋まる。

電車に乗る直前の彼女とホームでギュッと抱きあってまたね、と見送るまでそうおもって深く考えていなかった。解散してみるとこれでまた離ればなれなんだと気づいた。

会っていなかった時間は会うと埋まるより鮮明になる。まあ、なんだ、その、さみしくなっちゃったって話。

文鳥たちと暮らしはじめました

五月の最後の土曜日に自由が丘の鳥獣店で二羽の文鳥を買った。

一年くらい前から文鳥を飼いたいねという話は夫としていたけど、鳥を飼うことに決心がつかないままだった。トノコ以上の鳥はいないから、私はトノコがどこにフンをしても何を壊してもどんなに水浴びが下手でもかわいかった。
おなじように他の鳥がかわいがれるのかとても自信がなかった。

ところが私が思っていた以上に夫が文鳥との暮らしをたのしみにしていて、そんな人と鳥の出会いを私が妨害するのはちがうなとおもった。

夫も私も衝動ではいけない(鳥は衝動を起こさせるほどかわいい)ので、見かけた時は一度通りすぎて次の土曜にまた鳥獣店を訪れた。やはり二羽がいてうれしいと同時に、なんというか、もう観念するしかないなって気持ちだった。

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部屋にやってきたとき。こわがってなかなかボール紙の箱から出てきてくれないけど、気長に待った。強気なのに臆病なのは鳥らしいよね。

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一週間待たせたおかげで二羽はさし餌をほとんど卒業していて、日に三回で大丈夫という話だった。おかげで平日も昼休みに会社から戻ってさし餌するだけですくすく成長してくれた。

母とかわるがわるトノコにさし餌をした五月の連休を思い出していた。

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さし餌でおなかいっぱいになって肩でうとうとしているところ。

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はじめて水浴びをしてくれたとき。教えてもいないのに水浴びが上手で、とても洗えているように見えなかったトノコを思いだして彼女はやっぱりかわいかったしこれを見たら上達したのかなと思ったりもした。

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水浴びをしたらすぐに眠くなってしまったところ。
水浴びで疲れてしまって弱っているのではないかと不安になる。すくなくとも幼鳥のときはちょっとしたことすべてがネガティブなシグナルに見えてなにかしらの不安がある。

どんなに可愛がっても、愛情をもって育てても、死ぬときは死ぬ。ずっと緊張がある。

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ケージの床に敷いている紙がオモチャとして人気。

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昨日できなかったことが今日はできる。一日ごとにできることが増えていく文鳥たちの成長にうれしくなる。

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二羽は兄弟ではないと聞いているのだけどほんとうによくくっついていて、健康診断に行った病院でも仲が良いですねと言われうれしくなった。

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夫のシャツを裂いてホヨヨボールもどきを制作した。二羽とも徐々に慣れて同時に入ろうとして揉めるほど気にいってくれた。人間は感謝しかありません。

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夫の腕のうえでワイワイしている二羽。

夫は鳥どころか動物を飼うこと自体が初めてだというのに、私以上に真剣に文鳥に接している。それに応えるように二羽も夫に懐いている。

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手の上で鳥が寝てくれる以上のしあわせを人類は知らない。

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はじめての日光浴。最初はびっくりしてホッソリしちゃったけどすぐに慣れてウトウトする子と得意そうな顔をする子。

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はじめてのとうもろこし。
ひとりずつ渡してもなぜか一粒を奪いあって遊んでいる。かわいい。

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来たときからそれぞれだなと感じていた二羽の性格がハッキリとわかってくる。
慎重なのに不器用な子と大胆で器用な子。どちらもかわいい。

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ケージにつけたバードバスで水浴びしてくれた。
このバードバスは箱状になっていて上部カバーに水滴がつくせいか音が反響するせいか、なかなか慣れるのに時間がかかっている。

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それぞれのペースで過ごせるようにケージを分けたけど、なるべく近づける位置にいることが多い。いっしょにしたほうがいいのかなって迷う。こういうのは正解がない。

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小鳥のオヤツとして売ろうとおもって種から育てたオーツ麦が無事実った。

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(ワアー、食べた!)心のなかで歓声。
実際に騒ぐと文鳥たちをこわがらせてしまうだろうから無言のまま満面の笑み。

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自分が文鳥をそれも二羽飼うとは思っていなかった頃に蒔いた種から育ったオーツ麦を、おいしそうにムシャムシャ食べてくれる。この記憶を走馬灯にしよう。

二羽のことはすぐにでも書きたかったのだけど、鳥の雛は死ぬときは死んでしまうのでこわくて書けなかった。三週間を過ぎてそろそろ大丈夫かなと思ってやっと書けた。

健康で長生きしてほしい。飼い主はそのためになんでもするよ。がんばるね。

世界平和は銭湯からはじまる

ひさしぶりに銭湯へ行った。

疫病が流行しているので、大きな声の会話は控えるよう貼り紙された銭湯は静かで広くて天井が高くて、湯気が立ちこめて無言の裸のひとがそろりそろりと行き交い、静謐で荘厳ですらあった。教会*1みたいだ。

露天風呂へ行くとまだ霧雨が降っていた。湯船に顎のしたまで浸かって、湯気と雨粒が混ざりあったまだらな温度を顔で感じていた。これが気持ちいいから露天風呂はいいよね。

室内へ戻る。浴槽のふちにデンと腰掛けているひとに気を取られつつカランの前へ移動する。だいたいこの銭湯は照明設計がすこぶる良い。私のいる体を洗う空間は見やすいようダウンライトで明るく照らされているけど、浴槽の側は照度をグッと落として湯船でくつろげるよう薄明るく設定されている*2

肉厚でまろやかな直方体のような背中はその薄明かりに照らされてちょっと哀愁を漂わせていた。長年支えてきたもの、背負ってきたもの。いま銭湯にひとりで来ているこのひとは裸の背からそれを降ろして一息ついている。私とはちがうものだろうけどあなたも私もここではほんのひととき解放されている、そう思うと共に戦っているひとを見たような、そういうひとがいくらでも存在するんだということに気づいて気持ちがまるくなる。

銭湯から出るとだいたい世界平和は銭湯からはじまるんじゃないかって気持ちになっている。行きに着てきた上着は身体がぽかぽかでもう着られなかった。

 

*1:教会行ったことあるのかという話だけど、建築学生だったなごりで建築に行きたい一心で新旧の有名無名の宗教施設を見学したため一般的な無宗教の方よりは経験値があると思われる。

*2:この設計者は湯船で過ごすってことをよく分かっている。明るきゃいいってもんじゃない。実家の風呂は浴室の照明を消して脱衣所の明かりだけで湯船につかっているのが好きだった。