日曜日の昼、妹から急に連絡があり、曰く「熱海の再開発が進んでいる。廃墟が失われるまえに行こう」。はたして熱海の再開発が進むのかどうかは別としても熱海は行きたい。
翌週、妹と熱海へ向かった。
駅前の商店街を抜ける。
まず廃墟。
堂々のボリュームでそびえていてちょっと驚く。
はしゃいでいるのは妹だけで、たいていの人は通り過ぎる。いくら昭和の観光地とはいえ、この立地に使われない建築が放置された光景を日常としている。廃墟の本場は格がちがう。
住宅街を歩いていてもこの廃墟ビューである(正確にはフェンスをちょっとアレした)。雑草を踏んで歩いたせいでセンダングサの種がスカートにもタイツにも靴にも所構わず刺さりまくってしまい、このあとずっと痛い。
ビーチまで降りてきた。山から波際まで、ホテルで賑わってみえるけどはたしてどれほどの建築が生きているのか。底知れない廃墟力。
そのビーチに面している廃墟。右上の剥きだしになった小部屋の天井を支えている単菅パイプが見えるだろうか。潮風にさらされている廃墟を今日も健気に支えている。
このまま散歩してロープウェイへ向かおう。
交差点に立つ建設中のまま廃墟になった仮囲いに巣を構えているトンビ。熱海桜がちょっと写っている。
幸せそうな家族と公園と廃墟。廃墟の聖地、熱海のなせる日常。
公園で幸せそうな家族をうしろから見守っている廃墟。
階段が背骨みたい。
日本一短いというロープウェイは宣伝通りあまりに短かくて、ほんのちょっとワクワクしていた自分を慰めたくなるレベル。
何が見えるってホテルニューアカオしか見えないじゃないの。
妹も花摘みへいってしまいやさぐれていた頃、中年男性が望遠鏡を覗き「あれが見えるこれが見える」と同行の女性に逐一報告し、女性は一切顔をあげなかった。
ああ、昭和の観光地。
熱海の観光マップからなかったことになっているような気がする熱海城も展望台からはまるみえである。熱海の黒歴史なのだろうか。
ロープウェイを降りたらランチを求めて(廃墟以外で)賑わっていそうなエリアへ向かう。
妹とだいすきなアスパラガスのサラダを頼んだらまさかのホワイトアスパラガス(苦手)だったことはつらかった。
さらなる廃墟を探すべく街へ。
こちらのアパルトマン、生きているように巧妙に見せかけているけど駐車場としてしか使われておらず、おそらく建築は死んでいるのではないか。
網戸がやぶれがち。
妹が見つけた商店街の妙な路地を通過。
こういう「手前が暗くて奥が明るい」光景がすきなんだけど、伝わるかな。サバンナ効果かしら。
純喫茶パインツリーでプリン休憩。
熱海七湯という源泉を見つけるとすかさず手をかざしにいく妹。熱かったそう。
ここの階段は過去にも写真を撮っているくらい気になっていて、最近「梯子・階段の文化史」を読んで知ったウェルズのカテドラルにあるというSea of Stepsに似ている(個人的な見解)。
階段を奥へ進んでも民家しかなかった。
そうこうするうちに熱海に夜が訪れた。熱海の夜は早いなんてもんじゃない。
ここで帰ればいいのだけど、北にある古泉「走り湯」は24時間公開されていると妹が主張するので行くことにする。
大きな車道沿いを歩いても排気ガスを浴びせられるだけでなにも面白くないので、海岸側へ分けいった。
右側の廃墟の壁だけが残っているのが見えるだろうか。
小雨が振られながら民家と民家の暗すぎる脇道を抜けたり名前のわからない沢を渡ったりするのだけど、とにかく寒気と暗闇がこわかった。
開けた場所に出た。そりゃこんな廃墟に見下ろされていれば寒気もするだろう。
廃墟、本領発揮の時刻。
走り湯に辿りついた。
走り湯と書かれた実質の洞窟は照明が点いていなくて真っ暗。妹と数メートル進んでは恐怖のあまり何度か引き返した。ここまでも十分にこわかったけど、走り湯はめちゃくちゃこわい。
ここまで来て見ずには帰れないと妹がiPhoneをかざして洞窟を進む。おう、どうしたその度胸。
源泉の湯気が充満していて、ライトで照らせば今度は空気が白く光ってしまい先が見えない。
時折ゴボッゴボッと不気味な音が洞窟に反響し怖さのあまり笑いだしそうになっていると洞窟の行きどまりに到着した。ゴボゴボ音は湯の湧く音だった。
古泉を確認し何かをやり遂げた気持ちの私たちは車道へ戻りバスを捕まえて熱海駅へ戻った。
駅前温泉で雨と洞窟の恐怖で冷えた身体がポカポカに温まってよかった。
熱海のいろんな側面が見れてたのしかったな。また行きたい。