へもか

憶測以上の確定未満

睡眠と生活 2

十一月五日

部屋に戻ると紺色の缶に詰めた香ばしいクッキーを恋人が差しだし、「ブルーボトルで取り扱ってもらえることになったよ」と嬉しそうに宣言する。恋人の焼くクッキーがブルーボトルで売られる! すごいことだ!

私も恋人も普段はホテルのスタッフとして働いているので忙しい。「それはすごい!」としか言えないまま部屋を出てホテルと雪の残る街を境界なく駆けまわる。いろいろなトラブルがあってあちこちへ行かなくてはならないのだ。

すこし休もうと部屋に戻り扉を開けると、窓のまえに恋人と女性のシルエットが並んでいる。2,3歩前に進むとふたりとも裸で寄り添うように立ち、あいだに挟んだクッキーの缶を見つめていることが分かる。どうやらふたりでクッキーの出来栄えを褒めているらしかった。ふたりはすごく集中していたし、服を着た私が裸のふたりとの間合いを詰めるのはマナー違反だと思う。服を着たひとが服を着ていないひとにあまり近づくと服を着ていない人は照れてしまうかもしれない。人を照れさせてしまうのはよくない。

そっと部屋を出てまたホテルと街を駆けまわる。ホテル支配人から任されたトラブルがありそれをフィックスさせなくてはならない。恋人は何をしているだろうか。そういえばなんで裸だったんだろう。クッキーを褒めるために裸になる必要があるのだろうか。

そこで私はあの部屋にはベッドがあったことを思いだす。なんで気がつかなかったんだ!私は馬鹿なのか!と思ったところで目が覚めた。