ほとんどのケースにおいて読書は、本というグラスに注がれた知識や物語という甘いジュースを吸いあげるため結果的に生じる動作に過ぎない。
ジュースの味わいや成分について盛んに議論されることはあっても、飲みかたが話題になることはあまりない。もちろん、私だっていつでも美味しいジュースが飲みたい。
しかし本は蚊のような読者に養分を吸いあげられているだけのものではない。
本を手にしていながら物語を取りあげられるなんて読者は予想しただろうか。読者は自分以外に平行して存在する読者がいることを覚えていただろうか。自分以外の読者も、登場人物に自己を重ねあわせているなら、物語のなかで読者が繋がる可能性があることを分かっていただろうか。
私が読みたいと思う本は二種類あって、シンプルに美味しいジュースを湛えているグラスと、未知の飲みかたを手ほどきしてくれるグラスとがある。
「冬の夜ひとりの旅人が」は自由自在に飲ませてくるので、もはやどうやって飲んだのか思いだせないんですよね。