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へもか

憶測以上の確定未満

誰でも誰にも見向きもされない

読書

どうも、rintaroです。

旅行に文庫本(電源およびWi-Fi接続不要の革新的エンタメ・デバイス)を持つようにしたのは良かったんだけど、行きの新幹線でほぼ読みおえてしまった。ガリガリに飢えた目で本屋を徘徊していたら"村上春樹[訳]"の文字が飛びこんできた。

そんなわけで手に取ったのがグレイス・ペイリーの「人生のちょっとした煩い」という短編集。"煩い"というちょっとブルーな言葉がいいなと思った。

 

最初の短編は「さよなら、グッドラック」、自分を取るに足らない存在だと言いながらだれかに憐れまれるような人生じゃないのよ、と半生を姪に語る女性の話。

ぶちまけた言い方をしてしまうと、彼女の人生はかなり侘しい。でも私にしかできない唯一の生き方をしてきたと話す彼女の自負からは喜びと悲しみがかわるがわる溢れる。カラッとした強さと柔らかな情感がこの一人の女性のなかに太く編み込まれているんだと、徐々に分かる。

彼女が過酷な逆境にめげないからではなく、状況にそこそこ流されて生きる、すぐ隣にいそうな生々しい姿だから胸がつまる。隣ではなくてその姿は私自身に重なるのかもしれない。

 

ちなみに「人生のちょっとした煩い」というタイトルの短編はない。
「人生のちょっとした煩い」というのは「人生への関心」という短篇での台詞の一部。

絶望も希望もなく、ありふれた日常があるだけにすぎない、他人から見た私には。私の感情は誰にも見向きもされないということを、なされるがまま受けいれ、それでどこか損なわれていく彼女にどうして感情移入しないでいられるだろう。

 

文体はいたって自然体でアッサリしている。
こんなのは日常だろう、どこにだってよくあることだろう、と諦めたような眼差しに似ていて、瞬間ヒヤリとした感触を覚える。

しかしこういう人物たちが描かれることに体がホカホカするようなエネルギーを感じる。大丈夫。大丈夫。大丈夫なんだって思うことができる。

それもただ状況に流されているだけなのかもしれないが。